新しい営農型太陽光発電(農水省)に関する動向

(一財)社会開発研究センター理事長 松岡斉

農水省における有識者会議設置の背景

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、2050年ネットゼロの達成のみならず、農業者の所得向上や地域活性化に資する取組であるが、不適切な事例も散見される中、すべての取組を農山漁村にとって有益な地域共生型の取組へと誘導していく必要がある。こうした中、今後導入を推進する価値のある「望ましい営農型太陽光発電」の考え方を具体的に整理するため、有識者等の意見を幅広く聴取することを目的として、令和7年5月「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」が設置された。

政府の中でも、これまで農水省は営農型太陽光発電について、慎重な対応を執ってきた。その要因として、太陽光パネル下部の農地において、作物の生産がほとんど行われないなど、農地の管理が適切に行われず営農に支障が生じている事例が年々増加していることにある(スライド「営農型太陽光発電(ソーラーシェリング)の現況(右グラフ参照)」)。

● 営農型太陽光発電(ソーラーシェリング)の現況 –> 右グラフ拡大:

一方、農地に支柱を立て、上部空間に太陽光発電設備を設置し、営農を継続しながら発電を行う営農型太陽光発電は、農業生産と再生可能エネルギーの導入を両立し、適切に取り組めば、作物の販売収入に加え、発電電力の自家利用等による農業経営のさらなる改善が期待できる有用な取組である。このため近年、取組面積や件数は増加し、令和5(2023)年度には、前年度比142ha増の1,362ha、件数も791件増の6,137件に拡大した(「同スライド(左グラフ参照)」)。

● 営農型太陽光発電(ソーラーシェリング)の現況 –> 左グラフ拡大:

こうした状況を鑑み、農水省が有識者会議(検討会)を設置し、原則非公開ながら営農型太陽光発電の考え方や指標等を具体的に整理することは、農業経営の安定に資するだけでなく、我が国の食料・エネルギーの自給率向上にも寄与するものである。

以下では、入手可能な資料等をもとに現段階における検討会での主な検討状況(議論等)の概要を紹介する(スライド「営農型太陽光発電の潮流(政府の動き)参照」)。

● 営農型太陽光発電の潮流(政府の動き)–> 事例部分の拡大:

なお、本スライドで事例(食料・農業・農村白書:157頁)として掲載されている千葉県匝瑳市の市民エネルギーちば株式会社は、弊センターが関係する都市型農業創生推進機構(事務局:(一財)日本総合研究所)のメンバーが代表を務めている企業である。

望ましい営農型太陽光発電の考え方(案)

農水省では、望ましい営農型太陽光発電の考え方(案)における基本理念について、次の4つの事項をとりまとめている。

  • 〇適切な営農の継続を大前提として、特例的に農地一時転用を認めるものであること(規定の収量減少のおそれがなく、発電設備は簡易な構造で容易に撤去できるものであること)
  • 〇将来にわたって、農地の食料生産基盤としての機能が維持される取組であること
  • 〇発電事業者だけでなく、農業者の所得向上や経営発展に資する取組であること
  • 〇地域と共生し、地域活性化に資する取組であること
    そして、基本理念実現のために求められる営農型太陽光発電の形状・形態について、

  • ①発電設備に関すること:将来にわたり一般的な農業が可能な設備であることを担保
  • ②営農に関すること:適切な営農が確実に継続されることを担保
  • ③地域との共生に関すること:地域の合意形成や利益還元のあり方を明確化

の観点から、それぞれ整理を行い、制度見直しの検討方向(案)が示されている。

検討会における主な議論(意見)

こうした考え方(案)を整理するため、昨年5月に設置された検討会では、実際に営農型太陽光発電に取り組む事業者も交え、将来にわたり地域・農業と共生することが見込まれる望ましい営農型太陽光発電について、本年1月までに全5回、多面的な視点から議論を行っている。

検討会における主な意見(論点別)として、「生産性」、「品目」、「生産者」、「地域共生」の4項目から整理されている。

  • 〇生産性について
    • 水稲においては、減収を2割程度に抑えられる遮光率は30%程度であるといった知見が蓄積されつつある。
    • 効率的な機械作業を考えれば、高さは3メートル以上、支柱間隔は4~5メートル必要。機械の大きさから、適正な支柱間隔等は設定できる。
  • 〇品目について
    • 地域で栽培されている品目であるか、作物の販売等が行われるかが重要なポイント。
    • 食料安全保障の観点からも、対象とする栽培品目を食用作物とすることは重要。
    • 全国的に栽培実績のある米・麦・大豆以外でも、都道府県が指定する品目は容認するなどの考え方もある。
  • 〇生産者について
    • 農業で収入を得ようとする動きがみられない者は、認めるべきではない。
    • 発電事業を行う手段として農業に参入した者が多い。
    • 営農者が発電事業を行う場合でも、農業生産を含めて経営感覚をもった人材がいないと持続的な取組とならない。
  • 〇地域共生について
    • 行政計画において位置づけられた営農型太陽光発電設備であれば、地域との共生や合意形成がされていると評価してよいのではないか。
    • 営農者への利益還元として協力金が支払われる事例が多く、また協力金以外にも様々な地域貢献の形が考えられる。

今後に向けて

上記の望ましい太陽光発電の考え方(案)とともに、検討会における議論等を踏まえ、農水省では、民間団体が主催する拡大検討会(本年2月10日開催)において検討状況等を共有するなど、周知活動を推進中である。民間団体では、拡大検討会の意見等をもとに望ましい太陽光発電活用型農業に関する意見をとりまとめ、農水省に提言する予定である。こうした官民の協力により、農水省が新しい営農型太陽光発電の取組に主体的な役割を果たすことを期待している。

農業の経営安定化と自給率向上への取組(都市型農業創生推進機構の紹介)

(一財)社会開発研究センター理事長 松岡斉

取組の背景・課題

日本の近年(2024年度)の食料自給率は38%(カロリーベース)、エネルギー自給率は12.6%であり、主要7か国においても最低水準です。

国家や地域のレジリエンス(耐久力・回復力)の中核は「食・水・エネルギー」です。しかし、食料やエネルギーの多くを海外に依存している現状では、ロシアによるウクライナ侵攻や中東をめぐる混乱に伴う食料・エネルギー価格の高騰など、国際情勢の影響を大きく受けることになります。今まさに、食料・エネルギー安全保障の強化が日本の喫緊の課題と言えます。

ファンダメンタルズ強化へ原点回帰を

戦後の日本は「豊かさ」を追い求めて経済による復興・成長を遂げてきました。しかし、3.11やコロナ禍を経て、レジリエンスの重要性の教訓を得た日本は、「国民の安全と安定のための産業創生」へと原点回帰すべく、「食と農」や「エネルギー」などのファンダメンタルズ(自給率等の基礎的条件)強化に取組む必要があります。

都市型農業創生推進機構の設立

日本の食料自給率の低さは上述のとおりですが、近年、大都市圏の脆弱さは深刻です。千葉県こそ24%を保っていますが、東京都は0%、大阪府は1%、神奈川県は2%となっています。このため、当センターと研究・調査協力などで関係の深い(一財)日本総合研究所が事務局となり、都市部や都市近郊における都市型農業を推進することを目的に、2023年10月「都市型農業創生推進機構」を設立しました。

「食と農」の取組は生産のみに限りません。加工、流通、調理(消費)までを含めた「食のバリューチェーン」を強化し、付加価値を高めるための取組を推進することが肝要です。

都市新中間層の「食と農」への参画

世界の中でも日本の高齢化は際立っています。また、日本の人口は2008年の1億2,809万人でピークアウトしましたが、人口が1億人を割ると推計される2056年では、1億人を突破した1966年とはその人口構造が大きく異なります。

産業と人口を大都市圏に集中させたことで、総人口に占める首都圏(1都3県)の比重は増え続けてきました。国道16号線沿いに建設されてきた団地、ニュータウン、マンション群に住む「都市新中間層」の高齢化が今、急速に進んでいます。

こうした高齢者を日本のポテンシャルと捉え、「支えられる側」から、「支える側」となるパラダイム転換が必要です。すなわち、都市新中間層が「食べ物は買って食べるもの」という認識から脱却し、「食と農(食のバリューチェーン)」へ参画することが重要です。

農業×エネルギーの視点(農業に比重)

都市型農業の推進において、農業所得の確保など事業性のハードルが高いため、農業に比重を置きつつそれをクリアする付加価値の高い取組として「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」の事業性に着目し、取組を推進中です。

ソーラーシェアリングは、農業と再生可能エネルギーの創出を組み合わせた事例であり、主に以下の効果が期待されています。

  • 〇農業のダブルインカム化(農業収入・売電収入)による「農業経営の安定化」を実現
  • 〇エネルギーの地産地消による自給率向上と2050年ゼロエミッション達成への寄与
  • 〇地域で資金を循環させることで雇用の創出、所得向上、投資の振興
  • 〇地域金融機関に対し優良な投資機会を提供

などを通じて、まずは首都圏における都市型農業の成功事例を複数展開し、これらを全国へ横展開することで、地域の活性化(地方及び産業創生)を実現する取組です。

都市型農業の取組事例

当該機構がスタートして2年が経過し、会員企業等の連携により、千葉県(匝瑳市、佐倉市)、横浜市などで取組事例が進みつつあります。先月(10月)開催された第9回全体会議では、会員同士で連携し、有機さつまいもを原料に市場拡大が見込まれる「グミ」を商品化し、食のバリューチェーンの強化(コラボ商品の創出)を見据え、来夏に上市される、との取組紹介が報告されました。

また、会員が保有する新技術による農資材(生分解性バイオポリマー製マルチシート)を試行した高齢者・障碍者の就農支援(作業工程の軽減)に資する農福連携事業も「横浜モデル」として進展中です。

当センターの情報発信の強化

都市型農業創生推進機構の取組は、当センターとして一般財団法人移行後の中心的な調査研究テーマとして実施してきた「植物工場」とも親和性が高く、今後の付加価値の高い「食と農」の振興とともに、サステナブルな農業経営の安定に寄与することが期待されるため、センターとしても本取組との連携は有益な活動と受け止めています。

当該機構は定期的に全体会議を開催しており、当センターとしても会議運営に積極的に協力し、有用な取組内容について本通信を通じて定期的に情報発信することは、この分野の調査研究テーマの拡充等にも資する対応と考えています。

<参考>

都市型農業創生推進機構パンフレット(データ別添)