植物工場の全国最新実情

(一財)社会開発研究センター理事長 松岡斉

はじめに

当研究センターは、一般財団法人移行後の中心的なテーマとして「植物工場」に係る調査研究及び普及・啓発事業を推進している。近年、大消費地の首都圏や中京圏に近い地域で、先端技術を駆使して農業を成長産業と位置づける地方自治体、農業法人、スタートアップ企業などが徐々に増加しているとの報道もあり、その背景や現況を把握することが必要と考え、最新の実態調査・事例調査(報告書)を参照しながら、全体(概要)を整理する。

植物工場の実態調査・事例調査

一般社団法人日本施設園芸協会は、令和2年度より毎年「大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査」を実施し、その結果を「スマートグリーンハウス展開推進」の観点から事業報告書として公開している。調査内容は体系的であり、毎年実施しているため時系列に実態が把握でき、我が国の大規模施設園芸・植物工場の実情を知るうえで有用な報告書である。以下では、最新版の令和7年度報告書(令和8年3月)のポイントを紹介する(下記URL参照)。
https://jgha.com/wp-content/uploads/2026/04/TM06-07-bessatsu1.pdf

本調査の概要
(背景・目的)

我が国の農業産出額の約4割を占める園芸は、1年を通じて新鮮な野菜を消費者に供給するために必要不可欠なものとなっている。近年、施設園芸農家数は高齢化の進展などにより減少しているほか、温室の設置面積も平成13(2001)年には53,169haあったものが平成30(2018)年には42,164ha、令和5(2023)年には37,000haに減少している。

今後、実需者ニーズを踏まえた野菜などの周年安定供給を保持するためには、生産性向上と所得の向上に資する取組を推進し、魅力ある農業として確立する必要がある。

農林水産省では、データ駆動型農業を実践した施設園芸「スマートグリーンハウス」への転換に取組む産地の事例等を横断的に取りまとめ、全国に波及させることを目的に、令和2年度より「スマートグリーンハウス展開推進」事業の一環として、概ね1ha以上の施設園芸・植物工場の全国実態調査を実施し、その結果を毎年報告している。

なお、本調査は(一社)日本施設園芸協会に協力し、NPO法人「植物工場研究会」により行われている。

結果の概要(回答事業者の施設及び組織)

本報告では、栽培施設を「太陽光型」、「太陽光・人工光併用型」、「人工光型」と分類している。

実施方法について、対象は全国の植物工場及び大規模施設園芸事業者、調査期間は令和7年9月から令和8年1月、発送数は501票、有効回答数は153票(回答率30.5%)である。

① 施設の栽培形態

回答者の分布では、回答した計145施設のうち、太陽光型が50%(72施設)、太陽光・人工光併用型(以下、「併用型」)14%(20施設)、人工光型が37%(53施設)となっており、太陽光型の栽培形態の比率が高い。

② 組織形態

組織形態は、全体では株式会社(農地所有適格法人を除く)が49%で最も多く、次いで農地所有適格法人(農業生産法人)が43%である。栽培形態別では、太陽光型は農業生産法人が65%を占め、次いで株式会社が30%である。一方で、人工光型では株式会社の比率が76%と大きい。人工光型は農地以外に立地する事例が多く、企業が農業以外の異業種から参入しやすいことに起因する。

③ 栽培開始年

栽培開始年は、全体では2016年以降が49%を占めている。内訳は2016から2019年が26%、2020年以降が23%である。栽培形態別では、太陽光型は6割(43施設)が2012年以降に開始している。人工光型は8割(42施設)が2012年以降に開始しており、2020年以降が37%で近年になるほど増えている(図表参照)。


図表 栽培開始年

④ 雇用者数

施設における平均雇用者数では、通年(正規)の雇用者は、全体では1~5人未満が36%、5~10人未満が33%である。栽培形態別では、併用型、人工光型、太陽光型の順に施設当たり正規雇用者が多く、平均ではそれぞれ10.6人、9.4人、8.6人である。なお、人工光型、太陽光型は前年度比で増加している。

非正規・パートの通年雇用者は、全体では20~50人未満が30%と最も多い。施設当たりパート雇用者数の平均は、太陽光型31.7人、併用型51.2人、人工光型19.0人である。

外国人実習生を受け入れていると回答した事業者は全体で44%であるが、前年度(令和6年度)の50%からは減少している。栽培形態別では、太陽光型、併用型での比率が高く、6割程度の割合である。

⑤ 施設床面積・栽培実面積

太陽光型、併用型ともに平均施設床面積は約2.4haである。平均栽培実面積は、太陽光型で約1.9ha、併用型で約2.0haである。一方、人工光型の衛生管理エリアの平均床面積は1,125㎡で、栽培トレイの平均総面積は約2,600㎡である。

⑥ 栽培品目

各事業所の主要栽培品目の集計では、太陽光利用合計(太陽光型及び併用型)でトマト類が57%である。太陽光型はトマト類の比率が61%と最大で、次いでレタス類が10%、イチゴとイチゴ以外の果菜類がそれぞれ8%である。併用型ではトマト類40%、イチゴ20%、レタス類15%、花き10%である。

人工光型の主な栽培品目は、周年を通して安定した需要があり、果菜類に比べて光の要求量が少なく、比較的栽培のしやすいレタス類が90%で最多となっている。

結果の概要(生産・経営状況)

① 品目ごとの生産量

主要品目別の生産量の分析を目的とし、太陽光型において大半を占めるトマト類及び人工光型において大半を占めるレタス類に関して、それぞれ栽培実面積及び年間生産量を整理している。

太陽光型のトマト類の栽培に関しては、5千~1万㎡未満の栽培実面積の事業者が26%(11件)と最も多い一方で、栽培実面積2万㎡以上の事業者は前年度の40%から今年度(令和7年度)47%(20件)へと増加している。大規模事業者の回答が増加したことから、平均栽培実面積は前年度の19,574㎡から25,384㎡へ大幅(約3割増)に伸びている。太陽光型の主要品目のうち大玉トマトを栽培している施設の収量をみると、全体の68%が20㎏/㎡以上である。平均収量は前年度25.7㎏/㎡より微増し27.1㎏/㎡である。

人工光型の主要品目としてレタス類(ベビーリーフを除く)を栽培している施設の平均栽培実面積は2,145㎡で、栽培規模は分散している。レタス類の収量では、約7割が40㎏/㎡以上であり、平均収量は63.5㎏/㎡となっている。40㎏/㎡未満と回答している事業者の棚数の平均は約5.7段であるのに対して、80㎏/㎡以上の事業者は約8.4段で天井高のある比較的大型の施設の比率が高いと考えられる。

② 生産物の廃棄

生産物の廃棄について、太陽光型71%、併用型70%、人工光型75%があると回答している。太陽光型、併用型では、生育不良等による廃棄を理由とした事業者が半数を超えている。太陽光型で15%、併用型で10%、人工光型で46%が可販生産物を廃棄しており、特に人工光型が前年度28%と比較しても増加している。

廃棄があると回答した事業者における全体の生産量に対する廃棄量の比率は、太陽光型、併用型では、半数以上が5%未満(平均4.6%)であるのに対し、人工光型では平均比率で8.3%と高い(図表参照)。


図表 全体の生産量に対する廃棄量の比率

具体的な廃棄理由について、太陽光型、併用型では生産物の裂果や病気、規格外、高温障害、生育不良など生産・栽培上の理由が多く挙げられたほか、欠品を避けるため余剰生産しているといった販売・営業上の理由もあった。

人工光型施設において、直近3年間に生育不良があった場合の具体的な症状として、チップバーン(47%)、成長不良(29%)、徒長(24%)が順にあげられ、特にチップバーンは半数と多い。また、3分の1の事業者が複数の症状があると回答している。

③ 経営状況

直近(2025年度)の決算状況について、黒字・収支均衡の事業者は、全体で64%と半数を上回っており、2020年度に比べ4%増である。栽培形態別をみると、太陽光型及び併用型では、7割以上が黒字か収支均衡であり、特に太陽光型は黒字が51%で半数を超えている。人工光型は約5割が黒字か収支均衡となっている。

生産物の廃棄と経営(決算)状況に関して、特に人工光型の黒字事業者の決算別廃棄比率をみると、廃棄なしが6割を超えており、廃棄物の有無や廃棄量が収入(決算状況)に影響すると考えられる。

④ 事業安定化までに要した年数

全体(93施設)で、4~6年以内と回答した事業者が39%で最も多い。生産・経営上の課題と対策・工夫については、栽培形態にかかわらず収量の向上・安定とコスト削減の比率が大きい。次いで太陽光型、併用型では、病虫害対策、品質の向上・安定、労務管理、人手不足が、人工光型では、品質の向上・安定、販路開拓・営業、新品種導入、研究・技術開発が挙げられている。太陽光型では、猛暑による高温対策や環境への関心の高まりなどを背景に新品種導入やCO2排出削減について前年度比で10%以上の上昇である。

⑤ コスト構造

栽培形態別コスト比率に関して、全体で最も高い比率を占めているのは人件費であり、いずれの形態でも約32~36%の割合を占めている。次いで、太陽光利用合計で見たときにコスト比率が大きいのは水道光熱費(17%)、種苗・資材費(17%)である。人工光型は電気コストの比率が2021年度の19%と比較しても24%と高い状況が続いている。電気コストの内訳は、照明(58%)、空調(31%)で9割近くを占める。

⑥ 施設園芸に係る国の支援措置に対する要望

栽培形態にかかわらず、8割以上の事業者がエネルギー高騰への対策を要望し、人材確保支援や農地としての取扱い等への要望も上昇している。この他、建築関係の規制緩和、農地利用、電力料金の優遇措置や設備更新の補助など、様々な要望が寄せられている。

施設数の推移

直近(令和8年2月時点)での施設数について、大規模施設園芸及び植物工場の一覧が整理されており、太陽光型(202箇所)、併用型(49箇所)、人工光型(190箇所)の全体で441箇所である。直近5年の推移を見ると、太陽光型(176箇所から202箇所)、併用型(38箇所から49箇所)、人工光型(190箇所から190箇所)となっており、近年は太陽光型、併用型の施設が増加傾向にある。また、平成24(2012)年の210箇所と比べ、14年間で2倍以上の増加で、中でも太陽光型が2.5倍近くの伸びとなっている。

地域別に見ると、太陽光型は宮城県(20施設)、大分県(13施設)、茨城県(12施設)の順、併用型は千葉県(4施設)、新潟県(3施設)、北海道、福島県、茨城県、静岡県、福岡県が各2施設、人工光型は東京都(13施設)、福井県(12施設)、千葉県、神奈川県各10施設であり、全国各地に普及が進みつつある。

優良事例調査

スマートグリーンハウスの展開促進に向け、先端技術を導入して生産性や収益向上を図る事業者に毎年ヒアリング調査などを行い、優良事例として紹介している。令和7年度調査においては、優良事例として「栽培技術・生産工程管理」、「労務管理・組織管理」等の側面から取組んでいる工夫、及びそれによりいかにして生産性向上・経営効率化を図っているかを調査し、栽培形態毎にその調査先(3事業者)と選定理由について以下のとおり抽出(紹介)している。

  • 太陽光型施設として、世羅菜園株式会社(広島県世羅町)が選定され、選定理由(特徴)について、大手トマト関連メーカー、カゴメの提携企業。20年以上にわたり約9haの大規模施設を運営。夏越しを含むトマトの安定生産・安定供給を実現。
  • 併用型施設として、うれし野アグリ株式会社(三重県松阪市)が選定され、選定理由(特徴)について、バイオマス由来の工場蒸気からの排熱を利用した高軒高栽培施設にて環境へ配慮したミニトマト生産・運営を実践している。
  • 人工光型施設として、株式会社バイテックベジタブルファクトリー(石川県中能登町)が選定され、選定理由(特徴)について、全国3か所に生産・栽培拠点を持ち、全国展開している大手小売や食品企業向けに同社グループ全体で年間1,300トンを出荷。令和6年能登半島地震による被災後数か月で工場を再稼働させた経験を持つ。

今後に向けて

本通信においては、130頁にわたる大部な報告書の中から、筆者がポイントと考えるパートを中心に概要を整理した。これまで植物工場について、データを含め時系列で体系的な理解が十分に進んでいなかったが、植物工場に係る最近の新聞報道(日本経済新聞2026.4.11)を契機に本報告書にアクセスすることができた。

今後、継続して当該調査の結果等をフォローしつつ、当研究センターの「植物工場」に係る調査研究及び普及・啓発事業をより推進していきたいと考えている。